第29回:人類学を活かして生きる

2.オリエンタリズムにみる自己-他者の境界 2-1.境界を生きる この連載の最初に人類学的視点として挙げた、レヴィ=ストロース*1の「真正性の水準」に戻ってきました。「真正性の水準」という2つの社会の様態の区別は、他の人びととの対面的なコミュニケー…

第28回:失われた「生活からの視点」

1.都市のなかのフィールドワーク 1-1.人類学的視点とは 本連載の第1回でも記しましたが、20世紀最も偉大な人類学者であるレヴィ=ストロース*1は「人類学は、それに固有の何らかの研究テーマによっては、他の人文・社会科学から区別されない」と言っていま…

第27回:衣服の記号論

3.記号とブリコラージュ――あるいはモノの単独性について 3-1.制服という記号 鷲田さんのこの本(『ちぐはぐな身体』)は、衣服やファッションを「記号」として扱った本だということができます。つまり、衣服の記号論ともいえます。ただし、衣服を記号だと…

第26回:「きみはきみだ」

2.役割、秩序からの逸脱という「抵抗」 2-1.頼りない教師や看護師と築く固有性(単独性)の世界 鷲田さんは、じぶんが存在する意味は、他者の世界のなかにじぶんが存在していること、他者にとってじぶんが意味のある存在となっていることだという話をして…

第25回:『ちぐはぐな身体』を読む。

1.武器をもたない抵抗 1-1.〈はずし〉〈ずらし〉〈くずし〉――あるいは抵抗について 最後に読む本は、哲学者である鷲田清一さん*1の『ちぐはぐな身体』(ちくま文庫,2005)という本です。この本のテーマは「衣服」「ファッション」ですが、鷲田さんは人類…

第24回:はぐらかし、やり過ごしという「日常的抵抗」

6.システム依存からの脱却 6-1.勝手に生きるための工夫 この連載の第14回でも紹介した『日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか』(講談社、2007)の著者の内山節さん*1は、『怯えの時代』(新潮社、2009)という本の中で、現代社会の資本主義システ…

第23回:祭りで反乱を!

5.反乱のススメ 5-1.「コタツ闘争」による贈与と分配の生成 地域で繋がって「勝手に生きる」ことをめざしても、やはり「ロクでもない制度」や社会の常識という壁があります。そこで、生きづらいぞと思ったら、むやみに反乱を起こしたほうがいいという「反…

第22回:町内会を「流用」しちゃえ!

4.「自治」とコモンの中の多様性 4-1.町内会が支えるこれからの「自治」 前回(第21回)の記事で、自分たちを支配したり搾取したりするために作られたモノを自分たちの都合に合わせて換骨奪胎して利用することを、文化人類学や歴史学では「流用」と呼ぶと…

第21回:「地域」で繋がって勝手に生きよう!

3.「地域」で繋がって生きること 3-1.勝手に生きるために、繋がって生きる 「地域」で繋がって生きることは、「なるべく勝手に生きる」ための基盤となります。松本さんは、まず、商店街で繋がることを提唱します。 さて、我々貧乏人が世の中を生き抜くには…

第20回:「ボッタクリ経済」に抵抗せよ!

2.リサイクル革命と「モノに関する自治」 2-1.ボッタクリ経済への蜂起 世の中なんだか知らないがボッタクリがはびこっている。ボヤっと街を歩いているだけで何だかんだと金を使われそうになる。休日に新宿あたりを歩いていると、あれよあれよとヨドバシカ…

第19回:『貧乏人の逆襲!』を読む。

1.「自前」と「地域」について 1-1.なるべく勝手に生きていく 5冊目は『貧乏人の逆襲!』です。 この本は笑える本であり、これまでの本の中で最も読みやすいものかもしれません。著者の松本哉さん*1は、高円寺・北中商店街でリサイクルショップ「素人の乱5…

第18回:「みえない歴史」を生きる

5.現代社会における充足感の欠如をうめるには 5-1.相対主義の先へ 前回までで、内山さんの著書『日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか』を通じ、「文化相対主義」および「歴史相対主義」という考え方について、お話ししました。ただし、内山さんの…

第17回:文化と歴史の相対化

4.「客観的世界」というリアリティ、 「現象的世界」というアクチュアリティ 4-1.私と、私を包む世界の単独性 『日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか』第4章の「歴史と『みえない歴史』」で、内山さんは、明治期に山村に来た外国人技師がキツネに…

第16回:アクチュアリティとリアリティ

3.科学ではとらえられない現実とは 3-1.「キツネにだまされなくなった」わけ 『日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか』の第2章「一九六五年の革命」で、著者の内山さんは、人々が語る「キツネにだまされなくなった」理由として、 ①高度経済成長によ…

第15回:災因論で読み解く「出来事の単独性」

2.WhyとHowをつなぐもの 2-1.アザンデ人の災因論 前回、「災因論」とは不幸の「原因」を説明するためのものだと言いましたが、「原因」とは言っても、それは科学の法則による因果関係によって説明される「原因」ではありません。科学の法則は、ある特殊な…

第14回:『日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか』を読む。

1.科学・「日本人」・災因論 1-1.「日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか」という問いが 明らかにするもの 内山節さん*1のこの本の『日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか』というタイトルは、ちょっと不思議な気がします。というのも、昔…

第13回:農業技術と百姓仕事

3.「公益/私益」から「共=コモン」へ 3-1. 百姓仕事から生まれる「みんなの利益」 1970年代に、農業の価値の見直しとして、食料を生産しているだけではなく、洪水を防ぐ、水資源を涵養する、気候を緩和する、風景によるやすらぎを与えるといった、さまざま…

第12回:「自給」ということと自律・自治

2.「共=コモン」の回復 2-1.中央集権化で失ったもの さて、2つめのキーワードは「自給」です。それらはまた、「コモン(共)」というキーワードにもつながっています。ここで宇根さんが使っている「自給」ということばは、国レベルの「食料の自給」という…

第11回:『農は過去と未来をつなぐ』を読む。

1.減農薬運動がもたらしたもの ――主体性と自律性を奪っていたものは何か 1-1.日本の戦後と農業の歴史 今回、主となるキーワードは、「専門家支配(professionalism)」と「技術」と「リアリティ/アクチュアリティ」です。それとともに、「自給」(自治)…

第10回:二つの世界の対比・対立と「人類学的普遍性」

4.「灰色の男たちの世界」の中にある「モモのつくる社会」 灰色の男たちが生きた時間を直接搾取できずに死んだ時間に変えて搾取するしかないと、「生きた時間」と「死んだ時間」を対比させてきましたが、物語によれば、灰色の男たちが生きていくために摂取…

第9回:「灰色の男たち」への抵抗

3.〈聞く力〉が居場所をつくる 自分のまわりにも(つまり歓待や贈与や分配に溢れていた「貧しい人たち」の社会にも)「灰色の男たちの世界」が侵入してきていることに気がついたモモは、それに対して抵抗を始めます。何をしたのかといえば、友だち一人ひと…

第8回:灰色の男たちの世界

2.時間どろぼうの出現 このように、『モモ』における主題の一つが、モモの〈聞く力〉がつくりだす社会と、灰色の男たちのつくる世界との対比にあることは確かでしょう。では、灰色の男たちが出現させる世界がどのように描かれているのか、モモの世界とはど…

第7回:『モモ』を読む。

1.「モモの世界/灰色の男たちの世界」という対比 では、今回からファンタジー作家のミヒャエル・エンデ*1の『モモ』を読んでいきましょう。 この作品は、子供から大人まで楽しめるもので、読んだことのある人もいるかもしれません。面白い場面がたくさんあ…

第6回:「0円ハウス/0円生活」の普遍性

6.単独性と「住み込み」のフィールドワーク 河川敷を超えてつくられた「コモン=共」を基盤とする鈴木さんの0円生活は、「ホームレス」に一般化できない、鈴木さんだからこその自のやり方だと言ったほうがいいかもしれません(ただし、そのようなやり方は…

第5回:システム依存の都市型生活

5.自分たちで工夫することとモノの「近さ」 国交省による月1度の「撤去」は、河川敷の住民に重労働を課すものですが、同時に、住民の情報交換や物々交換の場として利用されてもいました。そして、それは、鈴木さんにとって、家を「近いもの」にすることでも…

第4回:0円生活の「公・共・私」

4.コモン=共 坂口さんの『TOKYO 0円ハウス0円生活』を読んだ感想を何人かに聞いたとき、「面白かったけれど、犯罪のようなことを称賛するのはどうなのだろう」という趣旨のことを述べてくれた人がいました。坂口さんも、あとがきで「隅田川に家を建てるとい…

第3回:0円生活にみる「人間的な生活」

3.贈与・分配 では、前回の鈴木さんのブリコラージュ生活に引き続き、彼の周りの社会における「贈与・分配」というやり取りを見ていきましょう。ここで「贈与・分配」という言い方をしていますが、厳密に学術用語として使うとするなら、贈与と分配とは異な…

第2回:『TOKYO0円ハウス0円生活』を読む。

2.ブリコラージュについて では早速、坂口恭平さんの『TOKYO0円ハウス0円生活』*1を読んでみましょう。 坂口さんは建築を専攻している学生のとき、卒業論文としてホームレスの家(これが矛盾した言い方になっていることに注意!)を「建築家なしの建築」…

第1回:人類学で現代社会をやり過ごす?

この連載は、現代社会を少しでも楽しく生きていくために役に立つ文化人類学のもつ独特の「視点」や「考えかた」をわかりやすく示し、皆さんに身につけてもらうことを目的としています。そのために、現代のさまざまな問題に触れた、一般向けの本(新書や文庫…

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