2016-01-01から1年間の記事一覧

第13回:農業技術と百姓仕事

3.「公益/私益」から「共=コモン」へ 3-1. 百姓仕事から生まれる「みんなの利益」 1970年代に、農業の価値の見直しとして、食料を生産しているだけではなく、洪水を防ぐ、水資源を涵養する、気候を緩和する、風景によるやすらぎを与えるといった、さまざま…

第12回:「自給」ということと自律・自治

2.「共=コモン」の回復 2-1.中央集権化で失ったもの さて、2つめのキーワードは「自給」です。それらはまた、「コモン(共)」というキーワードにもつながっています。ここで宇根さんが使っている「自給」ということばは、国レベルの「食料の自給」という…

第11回:『農は過去と未来をつなぐ』を読む。

1.減農薬運動がもたらしたもの ――主体性と自律性を奪っていたものは何か 1-1.日本の戦後と農業の歴史 今回、主となるキーワードは、「専門家支配(professionalism)」と「技術」と「リアリティ/アクチュアリティ」です。それとともに、「自給」(自治)…

第10回:二つの世界の対比・対立と「人類学的普遍性」

4.「灰色の男たちの世界」の中にある「モモのつくる社会」 灰色の男たちが生きた時間を直接搾取できずに死んだ時間に変えて搾取するしかないと、「生きた時間」と「死んだ時間」を対比させてきましたが、物語によれば、灰色の男たちが生きていくために摂取…

第9回:「灰色の男たち」への抵抗

3.〈聞く力〉が居場所をつくる 自分のまわりにも(つまり歓待や贈与や分配に溢れていた「貧しい人たち」の社会にも)「灰色の男たちの世界」が侵入してきていることに気がついたモモは、それに対して抵抗を始めます。何をしたのかといえば、友だち一人ひと…

第8回:灰色の男たちの世界

2.時間どろぼうの出現 このように、『モモ』における主題の一つが、モモの〈聞く力〉がつくりだす社会と、灰色の男たちのつくる世界との対比にあることは確かでしょう。では、灰色の男たちが出現させる世界がどのように描かれているのか、モモの世界とはど…

第7回:『モモ』を読む。

1.「モモの世界/灰色の男たちの世界」という対比 では、今回からファンタジー作家のミヒャエル・エンデ*1の『モモ』を読んでいきましょう。 この作品は、子供から大人まで楽しめるもので、読んだことのある人もいるかもしれません。面白い場面がたくさんあ…

第6回:「0円ハウス/0円生活」の普遍性

6.単独性と「住み込み」のフィールドワーク 河川敷を超えてつくられた「コモン=共」を基盤とする鈴木さんの0円生活は、「ホームレス」に一般化できない、鈴木さんだからこその自のやり方だと言ったほうがいいかもしれません(ただし、そのようなやり方は…

第5回:システム依存の都市型生活

5.自分たちで工夫することとモノの「近さ」 国交省による月1度の「撤去」は、河川敷の住民に重労働を課すものですが、同時に、住民の情報交換や物々交換の場として利用されてもいました。そして、それは、鈴木さんにとって、家を「近いもの」にすることでも…

第4回:0円生活の「公・共・私」

4.コモン=共 坂口さんの『TOKYO 0円ハウス0円生活』を読んだ感想を何人かに聞いたとき、「面白かったけれど、犯罪のようなことを称賛するのはどうなのだろう」という趣旨のことを述べてくれた人がいました。坂口さんも、あとがきで「隅田川に家を建てるとい…

第3回:0円生活にみる「人間的な生活」

3.贈与・分配 では、前回の鈴木さんのブリコラージュ生活に引き続き、彼の周りの社会における「贈与・分配」というやり取りを見ていきましょう。ここで「贈与・分配」という言い方をしていますが、厳密に学術用語として使うとするなら、贈与と分配とは異な…

第2回:『TOKYO0円ハウス0円生活』を読む。

2.ブリコラージュについて では早速、坂口恭平さんの『TOKYO0円ハウス0円生活』*1を読んでみましょう。 坂口さんは建築を専攻している学生のとき、卒業論文としてホームレスの家(これが矛盾した言い方になっていることに注意!)を「建築家なしの建築」…

第1回:人類学で現代社会をやり過ごす?

この連載は、現代社会を少しでも楽しく生きていくために役に立つ文化人類学のもつ独特の「視点」や「考えかた」をわかりやすく示し、皆さんに身につけてもらうことを目的としています。そのために、現代のさまざまな問題に触れた、一般向けの本(新書や文庫…

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