第20回:「ボッタクリ経済」に抵抗せよ!

2.リサイクル革命と「モノに関する自治」

2-1.ボッタクリ経済への蜂起

 世の中なんだか知らないがボッタクリがはびこっている。ボヤっと街を歩いているだけで何だかんだと金を使われそうになる。休日に新宿あたりを歩いていると、あれよあれよとヨドバシカメラなどのホームシアターセット体験コーナーなどに迷い込み、大して欲しくもなかったのに、ムリヤリ欲しくならされて、うかつに買ってしまい、挙句の果てにローンを組まされたりする![松本 2011:88-89]

 

 それに、よく考えてもみてくれ。会社でさんざんこき使われ、時間がなくなったところで手間いらずの洗濯乾燥機が欲しくなり、仕事に追われて生活が乱れて健康器具を買い、職場に向かう満員電車で快適に音楽を聴くためにiPodを買う。あの手この手でいろんな物を買わされて部屋が狭くなってきたら、今度は薄型テレビが欲しくなる。新品など金の余っている金持ちにでも買わせとけばいいのだ。あの連中はまんまと騙されて買い換えるから、そのボッタクリ経済システムのサイクルで用済みになったもの=中古品を何とかかき集めて、我々貧乏人の財産として流していけばいいのだ。
 そう! 街のリサイクルショップは貧乏人階級の物資センターたりえるのだ! どうだ、まいったか![松本 2011:89-90]

 

 一方、地域の中にリサイクル屋があるというのはかなりいい事で、要らなくなった人と欲しい人をつなげるセンターの役割をする。店がないと知り合いにあげたりするのが関の山だが、ちゃんとセンターがあれば、すぐに欲しい人へとわたるし、欲しいものも見つかる。わざわざ大きい街に行って買い、わざわざ配送してもらうなんていう無駄なことをしなくてもいい。近所の人の所で何かが余ってるかもしれないんだから。
 こう考えると、ちゃんと地域の中で物が回っていき、ムダにソニーや電通の連合軍にボッタクられる心配もない。[松本 2011:90-91]

  ここで「ボッタクリ経済」と呼ばれているものは、広告によってつぎつぎと新しい製品に「欲望」を掻きたてて買わせてしまう「消費資本主義」のことです。リサイクルショップによる中古品の循環は、この消費資本主義システムに対する「蜂起」であり「革命」であるというわけです。

 ここまで読んだ貧乏人の諸君、ちょっと考えてみてくれ。リサイクルショップを介して物がいくら回ろうと、リサイクルショップの売上がいくら上がろうと、貧乏人から金を巻き上げるボッタクリ経済システムには一切寄与しないのだ! こいつはすごい。中古品を買ったり、要らないものを売ったりすることがすでにボッタクリ経済への反対運動になってしまっているのだ! 近所のおばあちゃんが「あら、これ安いわねぇ」と中古のやかんを買って行くことが反体制行動なのだ! なんだこりゃ!
 だが、「物を大事に使う」とか「捨てないで修理する」などという、ごく当たり前なことが、反体制っていったいどういうことなんだ! そんな今の経済システムなんか、さっさとぶち壊してしまわないといかん! おい、貧乏人諸君! 立ち上がれ! ついに蜂起の時が来た! リサイクルショップに不用品を売りに行くぞ!! [松本 2011:91-92] 

 ここでは、リサイクルショップが、共有財(コモンズ)のための「物資センター」となり、非資本主義経済=贈与経済の場になりうることが指摘されています。松本さんの「素人の乱」(「貧乏人大反乱集団」)で最も成功した運動が、リサイクルショップの活動を守るための「反PSE法運動」でした。PSE法=電器用品安全法では、中古電器用品を販売するためには安全を保証した「PSEマーク」を貼らなければならないとありますが、それを発行できるのは「製造業者」(輸入品の場合は「輸入業者」)だけで、販売業者には資格がないとされていて、リサイクルショップで中古の電化製品を売ることができなくなる恐れがありました。
 製造業者にしてみれば、中古品となっても製品の安全性は自分たち製造者責任になってしまうし、中古品が広く出回れば新製品の売り上げに影響するとあって、この法律を促進しようということの裏には、消費資本主義に反するリサイクルを抑制しようという気持ちが働いていたと考えられます。つまり、消費資本主義に対抗するローカルな「リサイクル革命」の力をもっともよく認識していたのは、グローバルな企業である製造業者たちだったと言えるかもしれません。そして、PSE法(電器用品安全法)に対する反対運動が功を奏したのは、それが単に自分たちリサイクルショップの利権を守る運動ではなく、そのような消費資本主義的な経済のシステムに対する思想的な運動でもあったことによるのだと言えるでしょう。

2-2.市民生活と地続きの社会運動

 このように、アクティヴィストとしての松本さんの特徴は、仕事と市民としての活動が分かれているのではなく、運動と「勝手に生きること」が生活としてひとつになっていることであり、その生活と思想が分離せずに一致している点にあります。それは、次回の更新記事「地域で繋がって生きる」ということと関連しており、そこでも「モノに関する自治」として「地域」が出てきます。

 リサイクルショップが一番言われる文句が「なんだ、タダで物を持ってきて人に高く売りつけて儲けてやがる。とんでもねえ!」だ。ところがどっこい、リサイクル屋を甘く見てもらっちゃ困る。修理や改造などもやってしまうのだ。ちょっと不具合がある電化製品やグラついている家具などを直したり、まあできる範囲でやったりする。また、レコードや扇風機のカバーをムリヤリ時計に改造したり、壊れたタンスの板に脚をつけてテーブルにしちゃったりもする。で、こういう、酔った勢いで作ったような作品がまたお客さんに大人気で、みんな大喜びだ。[松本 2011:92-93]

 

 こうして自分らの地域で物を回していくときに、その中継点ごとに修理や改造などがなされていけば、中古品として我々の手に降りてきた以降は、ある程度、そのモノを我々の手でやりくりしていけるということになる。つまりは、モノに関してまで自治ができてしまうということだ。[松本 2011:93]

 この部分にも、リサイクルショップが、コモンズとしてのリサイクル品の物資センターとなるだけではなく、そこで「ブリコラージュ」や自前の修理・改造を行なうことによって、「モノに関する自治」ができると述べられています。この「モノに関する自治」は、この連載の第12回目の記事で読んだ宇根豊さんの用語をつかえば、「モノの自給」と呼ぶこともできます。重要なことは「自分らの地域で物を回していく」といっているように、コモンズとしてのリサイクル品を「シェア」し、地域で「モノを自給」することで、「地域=ジモト」にコモンの関係が作られていくことです。そのコモンは、街で演劇やお祭り騒ぎの活動をする基盤となるだけではなく、相互扶助や贈与経済のつながりにもなっていきます。

 リサイクルショップを味方につけておけば、何でも物が舞い込んでくるのだ。例えば、ちょっと駅前で景気のいい音楽でも鳴らしてみるかと思い立ったとする。その程度なら倉庫に行って、発電機、アンプ、プレーヤー、スピーカーを持ち出せば簡単にできる。運ぶのが大変な時でも、普段買い取りや配達に使っているトラックに積めば余裕だ。第3章で詳しく報告するが、駅前あたりでとんでもない勝手な祭をしでかしたりしたが、ほぼ自前で調達してやっている。
 また、演劇をやったり映画を作ったりする人は高円寺なんかだと結構いて、よく小道具を捜し歩いたりする。当然、こういう貧乏劇団や貧乏映画監督は100%金がなく、よくリサイクルショップなんかに探しに来る。一応、そういう人たちには、デパートとか田園調布の豪邸あたりから盗み出すことをオススメしているのだが、なかなかそうもいかない場合も多いようなので、無料で貸してあげたりする。撮影のためだけにわざわざ買うなど、こんなバカバカしいものはない。前にも言ったが、リサイクル品は、金持ちから降りてきたお古で、すでに我々貧乏人社会の共有財産と化しているので、どんどん使ったほうがいい。・・・・・・ってこんなことを書くと、やたら借りに来そうだが、いくらなんでも限界はあるのでわきまえてくれ![松本 2011:94-95]

 

 この間、友達の家が全焼してしまい、裸一貫でほっぽり出されて路頭に迷っていたのを助けたことがある。この時なんかは急遽、年式が古かったり状態がそんなによくないがまだ使えるものなんかをかき集め、無料で家財道具一式をそろえてあげた。ちょっと話は変わるが、以前[2006年]、イスラエルがレバノンに攻め込んで無茶苦茶に街を壊しまくって逃げたことがあった。この騒ぎのあと、レバノン政府は困り果てた庶民に対し、ロクに何もしてくれなかったが、ヒズボラという民兵組織[その後議席を持つ政党組織に発展]は何から何まで面倒を見てくれたという。なので、この辺の人たちは政府よりゲリラ組織の方を信用しているらしい。うーん、これはすごい。素人の乱は民兵組織ではないが、結局、手続きばかりややこしいわりにたいして役に立たない政府より、洗濯機を持ってきてくれるほうが信用できるに違いない! これは間違いない!
 まあこんな感じで、やたら物資が集まってくるのは何かと使えていい。[松本 2011:95]

 次回からは、「モノの自治」で生まれたコモンによって地域でつながり、なるべく勝手に生きていく、とはどういうことのなか? 詳しくみていきましょう。


【参考文献】
松本哉
 2011 『貧乏人の逆襲!(増補版)』ちくま文庫

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