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第22回:町内会を「流用」しちゃえ!

4.「自治」とコモンの中の多様性

4-1.町内会が支えるこれからの「自治」

 前回(第21回)の記事で、自分たちを支配したり搾取したりするために作られたモノを自分たちの都合に合わせて換骨奪胎して利用することを、文化人類学や歴史学では「流用」と呼ぶと言いました。行政や警察の下請けとなっている町内会を自治のための組織にするということも「流用」だと話しました。では、具体的にはどのようなことなのでしょうか? 松本さんは「防犯パトロール」を例にして、つぎのように言います。

 また、町内会の仕事として、ご存知「防犯パトロール」という、ウサン臭いものがある。基本的にドロボーや痴漢など、変な連中がいないかパトロールしたり、子供が夜遊びしてないかとか、非行少年がタバコ吸ってないかとか、なんだかよく分からないパトロールをしている。そのパトロールからすると、当然われわれのような、街を無意味にウロついている連中は「防犯」の対象だ。特に、平日昼間に働いていないニート諸君なんかは不審人物以外の何者でもない。これで髪が長かったりヨレた服を着てたりしようもんなら、通報されかねないぐらいの勢いだ。これはひどい。ただマヌケなだけなのに通報されるとは、いったいどういうことなんだ!!
 だがしかし、こんな不審者を見つけて警察に通報するだけのパトロールなら、単なる警察の手下で、「自治」の風上にも置けない集団だ。本来は自分らの街を守るという「自治」の意味のパトロールだから、自分達で問題をかいけつしなきゃいけない。例えば、近所でマヌケなコソ泥を発見したとする。そういう時は、とりあえずとっ捕まえて説教すればいい話だ。
 こんな感じ。
パト「何でこんなことやったんだ。福島のおふくろさんが泣いているぞ」
ドロ「へえ、会社が倒産したあげく、実家が火事で焼けまして、おまけにせがれは車で子供を轢いちまい、借金まみれに・・・・・・。プロミスの追っ手を振り切り、何とか東京にたどり着いたところで手持ちの金もなくなり・・・・・・」
パト「しょうがねえ。じゃあしばらく、うちの材木屋で木でも切ってほとぼりをさましない。そのかわりもうこんなことすんじゃねえぞ」
ドロ「この恩は一生忘れません」
 これが自治の理想ではないか! なんでもかんでも警察じゃ、自治能力がゼロになってしまう。[松本 2011:105-107]

 

 逆に、さっきのコソ泥の話じゃないが、自分らで街の問題を解決していくようなパトロールならあっても害にならないし、むしろいいぐらいだ。今の世の中の流れは、外でタバコ吸っちゃダメだとか、ポイ捨ては罰金だとか、監視カメラ設置を奨励したり、なんだか知らないがやたらと管理したがる風潮がある。あげくの果てには、スケボーや自転車の交通違反で罰金を取りはじめたり、ネットカフェで寝泊まりしているだけで犯罪者予備軍だとか言い出したり、イカレたことになってきている。こんなささいなことを、罰則や強制で取り締まっていくなどどうかしている。このままいったら、・・・・・・とんでもない神経質社会になりかねない。こういうことは自分らで何とかしていくべきものだ。こんなに生きにくい社会になったらたまったもんじゃないので、自分らで物事を解決できるような態勢をとっておこう。[松本 2011:108]

 このような「自治」は、江戸時代まで村にありました。古川貞雄さん*1の『村の遊び日』(農文協、2003)という本によれば、犯罪者の取り締まりや処罰は若者組を中心とする村の組織で行なっていましたし、村の決まりも自分たちで決めていました。松本さんの自治の思想は、すでに昔に民衆たちのあいだにあったものの再発見という面があります。

4-2.自前の公共空間をつくる

 また、出来合いのものでも、自分たちの目的に合わせて組み替えやブリコラージュして使おうという「流用」の精神は、「防犯パトロール」だけではなく、「祭」にも及びます。

 「祭」というのは宗教儀式という以前に、「この日だけは日常のしがらみから離れてのびのびやっちゃおう」的な要素がある。昼間っから大騒ぎしてみこしを担いで練り歩き、終わったら夜遅くまで大酒を飲んで騒ぐ。普段、何もないときにこんなことやらかしたら、苦情の嵐! 警察呼ばれるわ、キレたおっさんが包丁持ってきて怒鳴り込んでくるわで大騒ぎになる。だが、祭の日だけはそこそこOK。なんだこりゃ!? もっと言えば、若い奴らが街で音楽イベントでもやり、打ち上げで路上飲み会をやったら大苦情が来るくせに、地元の神社の祭の場合は、迷惑度で言ったら変わらないのに、おとがめなし。同じことなのに。逆に、特に地域に知り合いもなく一人暮らしをしている人からすれば、地元のでかい祭りなんかがあったら「安眠できねえ!」と言って怒鳴り込んだり、通報したりすることもある。
 ・・・・・・なんだかんだいって町内会のような地元公認の方がなんとなく許されるというだけの話。となったら、これはもう参加してみるのもいい。「この日だけはのびのびやっちゃおう」という祭自体は特に悪いことではないので、それが公認されているような状態を大事にするのはとても大切。それに、普段の「常識」じゃありえないような祭を地域のオッサン&おばちゃんたちと共にすれば、なんか連帯感も生まれてきて、若いやつらのやっていることにも寛容になってくれるはずだ。そもそも、オッサンたちと若い奴らのやっていることって、センスが違うだけでほぼ変わらないんだから、文句を言い合うほうがおかしい。[松本 2011:109-110]

 ここで注目したいのは、出来合いの町内会やその祭りを「流用」するときに、自分たちの仲間だけではできないということです。それは、「地域のオッサン&おばちゃんたちと共に」行なうものとなります。そこには「地域のもの」という縛りがあります。いいかえれば「拘束性」があるわけですが、その縛りや拘束性こそが異なるものどうしの交流やそれによる多様性を生みだすのです。
 そして、それは、既成のものを「流用」するときだけではなく、自前のイベントを企画するときにも言えます。そこに「地域に根ざす」という縛りがあることによって、多様性が生まれます。それは、「中心」(中央)にすべてのモノを集中させて作られる多様性(それは中心にいる者だけが味わえる多様性であり、いわば上から俯瞰している多様性です)ではなく、中心抜きの、地域と地域の直接的な交流による多様性です。そのような多様性を生みだす交流のために、松本さんは、「公共施設を勝手に作ろう」と提案しています。それは、すでに述べたように、多様性を生む単独性どうしの交流やつながりを生むための空間としての、地域に根ざした「公共施設」です

 とりあえず、多目的劇場を作ろう。そこで自主映画の上映をやったり、小さな劇団の芝居をやったり、面白い人を呼んできてトークイベントをやったりできる。また、平日の昼間などに演歌歌手や落語家を呼んでくれば、近所のじいさん&ばあさんも大喜び間違いなしだ。えらそうな奴が説教くさい講演をやってもいいし、つまんない奴が詩の朗読をやってもいい・・・・・・。とにかく地域のいろんな奴がなんかやれるようなスペースがあったら相当楽しい。やりたいけど場所がなかったような連中はここぞとばかりにいろいろやりだすし、そういうことに興味なかった奴らもなんかやるキッカケになるかもしれない。それに、いろんなイベントが行われていたら、まったく違う分野のものと接する機会ができるので、今まで縁のなかったことに目覚めてしまったりするかもしれない。当然、知り合いも増えまくるので、笑えるイベントやアホな出来事などの情報が舞い込んでくるようになる。これはすごい!
 交通機関の発展でどこへでもすぐに行けるようになった上に、最近はネットの普及で情報があふれかえっているので、ますます地域コミュニティ内の文化が死んでしまっている。例えば音楽が好きな人は、音楽の情報なら他の街どころじゃなく日本中どこで何が起こっているかすぐに分かるかわりに、自分の街の他のジャンルがどうなっているのかよく分からなかったりする。これはもったいない!(中略)
 これだけ日本中に繋がれる情報があるなら、これに加えて地域の文化があって、それが繋がっていけば、どこへ行っても何をしてても、どこまでも繋がっていくような、かなり面白いことになる。わざわざ銀座の画廊に糞尿を撒きに行ったり、四季劇場にブタの屍骸をぶん投げに行ったりしなくてもいいぐらいになってしまうぞ![松本 2011:117-118]

 このように、地域という縛りのある、しかも「勝手に」広がっていく人と人との交流が、「銀座の画廊」や「四季劇場」という「中心」を経由しない(中心に搾取も管理もされない)、「自前の文化」を生みだします。「勝手に生きる」楽しさや「自前の文化」は、他の地域との直接的な交流によって生み出されるのです。贈与や相互扶助がなければ、自治や自立もないのと同じように、地域(単独性どうしのつながりとしてのコモン)に根ざさなければ、地域を越えた人と人との交流や多様性もないということができます。
 次回、自前の公共空間をつくった後にそこで何をするのか? 地域で「勝手に生きる」こととはどういうことかを見ていきます。

 

【参考文献】
古川貞雄
 2003 『村の遊び日(増補版)』農山漁村文化協会(人間選書)
松本哉
 2011 『貧乏人の逆襲!(増補版)』ちくま文庫

*1:古川貞夫(ふるかわ・さだお)

1931年生まれ。日本近世史研究者。長野県史主任編纂委員、長野県立歴史館学芸部長など歴任。

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